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1月24日、ニューヨーク。シェリル・エンジェルさん(56)と彼の仲間に冷たい雨が激しく降りつけていた。それでもエンジェルさんたちはそこから動こうとしない。56歳の活動家で、ローズバッド・スー族の長老は、ノースダコタ州にあるスタンディングロック・スー族のネイティブアメリカン保留地で数カ月間仲間と寝食を共にしながら、ここよりはるかに過酷な天候を耐え抜いた。
エンジェルさんはここで、ダコタ・アクセス・パイプライン(DAPL)が、湖の神聖な水域の地下に掘られることを阻止するために闘っていた。
ダコタ・アクセス・パイプラインは、石油パイプライン会社「エナジー・トランスファー・パートナーズ」がノースダコタ州からイリノイ州までをつなぐ1172マイル(約1886キロメートル)のパイプラインを建設するプロジェクトだ。建設ルート近くの居留地に住むアメリカ先住民スタンディングロック・スー族とその支援者たちが、水源のミズーリ川が汚染されることを懸念し抗議デモを続けていた。アメリカ陸軍省工兵隊は2016年12月4日、ミズーリ川をせき止めたダム湖「オアへ湖」の地下にパイプラインを通す工事を認可しないと発表し、建設は中断されていた。
トランプ大統領が閣僚に指名した候補を承認しないよう働きかけるため、民主党のチャック・シューマー上院院内総務とカーステン・ギリブランド上院議員のニューヨーク事務所前に詰めかけた人々の中に、エンジェルさんの姿もあった。しかしエンジェルさんには、このパイプラインをめぐる闘いは終わらないだろう、という予感があった。
「アメリカよ、目を覚まして。アメリカを縦断するパイプラインが、建設されようとしている。あなたの裏庭の水も危険に瀕していることに気付いてほしいのです」と、エンジェルさんはハフィントンポストUS版に語った。「アメリカ国民が結束し、着工されようとしている水源を守らなければいけません」
トランプ大統領は24日、パイプライン建設を再開させる大統領令に署名したが、エンジェルさんはダコタ・アクセス・パイプライン建設反対運動を続ける覚悟だ。HAYLEY MILLER/THE HUFFINGTON POST
大統領令では、暗礁に乗り上げているダコタ・アクセス・パイプラインの工事を完了させ、カナダのアルバータ州からネブラスカ州までの1179マイル(約1897
キロメートル)をつなぐパイプライン「キーストーンXL」建設を手がける「トランスカナダ」に、オバマ前大統領が2015年に却下した建設計画の再申請をするように促している。
アメリカ先住民の指導者たちは24日午後、この大統領令と闘う意向をいち早く発表した。石油輸送用の導管の敷設は、2016年12月4日以来中止されたままだ。オバマ前大統領政権下で発令された、抗議デモの勝利と称賛されたこの中止命令は、新たな大統領命令によって取り消されるかもしれない。
「トランプ大統領は、文化的・環境的に豊かな大草原を縦断する『ブラック・スネーク』(ダコタ・アクセス・パイプライン)建設で暗躍する人間たちと手を組んだことで、自分の正体をさらけ出しているのです」と、草の根の非営利組織「先住民族環境ネットワーク」代表トム・BK・ゴールドトゥース氏は声明で述べた。
「トランプ大統領が出したこの建設着手命令は常軌を逸しており、行き過ぎだ。先住民として受け継いだ先祖代々の故郷への攻撃に他ならない」
大統領の発表があった数時間後、数百人の抗議デモ参加者がニューヨークシティのコロンバスサークルを埋め尽くした。THE HUFFINGTON POST / SEBASTIAN MURDOCK
「すべての人々の生活が大切なら、先住民族の生活も大切だ!」「土地をそのままにしておけ、石油は飲むことができないのだから!」とスローガンを叫ぶ声が広場内に響きわたった。
トランプ大統領の新たな大統領令に反対して、数百人の抗議デモ参加者たちが集まった。
このイベントは、環境悪化を懸念する人々に、トランプ大統領の新たな命令に反対する多くの草の根団体が主催した。
ローズマリー・フォークナーさん(74)は友人のメールで抗議デモのニュースを知り、この時とばかりにすぐ署名した、と語った。
抗議デモに参加したローズマリー・フォークナーさん。SEBASTIAN MURDOCK / HUFFINGTON POST
「トランプ大統領がどんなことをするのか、誰にもわかりません」と、フォークナーさんはハフィントンポストUS版に語った。「彼がこんな恐ろしいアイデアを実行しないことを望み続けていますが、状況は悪くなる一方ですね」
アメリカは再生可能エネルギーにもっと集中する必要がある、とフォークナーさんは語った。
「あまりにも露骨過ぎます」と、フォークナーさんは語った。「気候変動は、とても重要な問題なんです」
自由社会党の事務局員、ジェッド・ホルツさん(34)は、きれいな水域を守るために、より大きな変革を求める時だ、と語った。
「環境への攻撃を阻止するために、人種を超え、一般市民の結集がさらに広がるでしょう」とホルツさんは語った。
抗議デモ参加者を守る「人間の盾」となるためにやってきた2000人の退役軍人など、アメリカ先住民たちの水源を守ろうとする「水の保護者」たちが2016年、デモの拠点となったスタンディングロック居留地の「オセチ・サコウィン・キャンプ」に集結した。彼らは氷点下の厳寒の中、治安部隊による攻撃犬や催涙ガス、消火ホースでの放水といった攻撃を受けても非暴力を貫き、建設中止を勝ち取った。
しかし大規模デモでトランプ氏の大統領令を阻止できると期待してはならない。スタンディングロック・スー族の部族評議会は19日、1月末までに、野放図に広がったオセチ・サコウィン・キャンプから、デモ参加者に撤退を要請する決議を満場一致で承認した。「スタンディングロック・スー族の保留地の近くのさらに高台となるところに、自分たちの居場所として代替地が提供されることを、抗議デモ参加者たちは熱心に訴えていた」と部族評議会の広報担当者スー・エバンスさんはハフィントンポストUS版に語った。部族評議会はこの闘いを、法廷に持ち込むことを計画している。
2017年1月24日、ノースダコタ州、キャノンボール付近のダコタ・アクセス・パイプライン抗議キャンプで、風雨に曝され、上下が逆に掲げられたアメリカ国旗が風になびいている。
ニューヨーク大学の学生ジョン・リンドストロームさん(29歳)は、この水域の保護者たちを支持するために、24日の抗議活動にやって来た。
「スタンディングロックの先住民指導者たちが私たちに求めていることを尊重しなけれければいけません」とリンドストロームさんは、デモ参加者たちに撤退を要請する決定について語った。しかし抗議がまた始まるなら、逮捕されることを覚悟でスタンディングロックの保留地に行くつもりだと語った。
スタンディングロック・スー族の代理人を務めるNGO「アースジャスティス」のフィリップ・エリス上級報道官によると、厳密に言えば、ダコタ・アクセス・パイプラインの建設着手自体は大統領令とはならないという。この大統領令は、アメリカ陸軍工兵隊に「法の下で許容された期限内に」許可手続きを完了させるように命令するものだ。陸軍工兵隊には法律上すでに環境影響評価書(EIS)の全要件を実施し、代替ルートを検討するように要求しているという。
「大統領令のどんな文言をみても、これを変更することはできないし、建設再開を求めることにすらなりません。陸軍工兵隊がこの大統領令に従って、EISの手順を踏むことなく地役権(ある土地の便益のために、他人の土地を利用する権利)を承認するようなことがあれば、法律に違反することになり、陸軍工兵隊は告訴されることになる」とエリス上級報道官は、ハフィントンポストUS版に回答した。「スー族はこの大統領令に対して法的措置を取ることを望んでいません。陸軍工兵隊が地役権を承認したら、過去の所見に反することとなります。おそらく私たちは地役権が承認された段階で再審査を要求するでしょう」
スタンディングロック・スー族のキャンプ周辺ですでに野営しているデモ参加者たちにとっては、トランプ氏の大統領令は、新たな戦闘準備のきっかけとなる。このキャンプで診療所を運営しているグループ「メディック+ヒーラー評議会」は、大統領令が署名された24日から、ボランティアに再度要請した。
「キーストーンXLとダコタ・アクセス・パイプラインを推進するトランプ政権の決定には失望したが、進歩的だったオバマ大統領の時代であっても、スタンディングロック・スー族とダコタ・アクセス・パイプライン反対運動が、武力的な抑圧に数カ月間直面してきたことを考えれば、これは想定の範囲内と言える」と、民族植物学者でメディック+ヒーラー評議会の主宰者リンダ・ブラック・エルクさんはFacebookに記した。「私たちは関係者のみなさんに、水の保護者と連携し、ダコタ・アクセス・パイプライン建設に反対するという立場で参加してくれるようお願いする」
エンジェルさんは、さらに広い視野で闘いの将来を見据えている。「アメリカは化石燃料の使用を止め、主要河川に漏洩してコミュニティの飲料水に危害をもたらすパイプラインの環境環境破壊を防ぐことが必要不可欠だ」とエンジェルさんは語った。奇しくもカナダのサスカチュワン州の先住民アボリジニの土地で23日、パイプラインが5万2834ガロンの石油を流出させた。これはトランプ氏が大統領令に署名する直前に起きた事件であり、署名する時まで24時間も経っていない。
「化石燃料産業は死に体にあり、消え去ろうとしている産業です」と、エンジェルさんは語った。「環境に配慮したエネルギーこそが、新しいアメリカをつくるのです。トランプ大統領とその閣僚が、パイプラインのインフラ建設を行おうとするので、我が国は化石燃料に依存したままになるのです」
トランプ大統領がパイプライン建設を推進すれば、アメリカ中の「水の保護者」たちにとっては大きな後退となるのは間違いない。しかし、エンジェルさんは闘いを再開する覚悟だ。アメリカ国民は、パイプラインの建設ときっぱりと手を切ることができる、とエンジェルさんは確信している。
「アメリカ国民は、何だってできるのです」と、エンジェルさんはハフィントンポストUS版に語った。「これがアメリカなんです。私たちは、いつから一人の男を恐れるようになったんですか? 怖いからといって、引き下がってなんかいられないのです」
「アメリカよ、目を覚まして。アメリカを縦断するパイプラインが、建設されようとしている」と、エンジェルさんはハフィントンポストUS版に語った。HAYLEY MILLER/HUFFPOST
(転載はここまで)
トランプ氏の大統領令で、先住民のダコタ・アクセス・パイプラインをめぐる闘いの幕、再び上がる
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