2017年2月8日 東京新聞
カフェに込めた思いを語る武石和成さん=東京都世田谷区で(中西祥子撮影)
小田急線世田谷代田駅(東京都世田谷区)前にある「cafeシモキタトナリ」。児童養護施設を退所した若者らの相談にのったり、就労支援をしたり「カフェでできる福祉」を手探りで行っている。福祉色を前面に出さず、気軽に立ち寄れるようにして若者の自立を支えている。 (北條香子、安藤美由紀)
運営する一般社団法人「SHOEHORN(シューホーン)」の武石和成代表(33)は、かつて児童養護施設で六年間働いた。親の虐待を理由に入所した子どもたちは退所後も親を頼れず、相談できる大人も周囲に少ない傾向があるという。
施設の職員は忙しく、退所した若者のフォローに時間を割けない面がある。退所後の支援はNPO法人なども行っているが、足が向きにくい若者も多い。「フラッと立ち寄り、元気をつけてくれたら」と二〇一五年六月、カフェを開店した。
店名は下北沢駅の一駅隣という意味。約五坪で、客は一日三十~五十人。ほとんど近所の住民で、施設を退所した若者はごく一部。
店内には、さまざまな職業とやりがいを書いたファイル「おシゴト図鑑」も。客に記入してもらい、退所者を含む若者に閲覧してもらっている。ウェブでも公開し、児童養護施設にコピー配布も考えている。「人間味あふれた仕事情報を見たら、親しみを持ってくれるのでは」と武石さん。
店内をはじめ、外に店を出す場合にもカフェの仕事を手伝ってもらう職場体験を実施。就労に自信のない若者に自信を付けてもらう狙いで、施設退所者以外も含め、これまで約五十人を受け入れた。
ドリンク二杯分の価格で、一杯は退所した若者にごちそうする「エールチケット」も販売。若者や地域の支援者が参加して思いを語り合う催しも毎月一回開いている。
ただ、あくまで福祉施設ではなくカフェ。「私が若者なら『支援してあげるからおいでよ』という店には行かない」(武石さん)からだ。そのため、山形県産の野菜を使った日替わり定食やスムージーといった人気メニューを工夫。野菜やパン、お菓子も販売している。妻で店長の由貴子さん(31)との間に昨年十月生まれた長男が“看板息子”として客を和ませる。
児童養護施設の元職員で、同じような店をやりたい人も多いといい、武石さんは「ビジネスモデルとして成立させ、前例をつくることが使命」と力を込めた。
(東京新聞)
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017020890135425.html