基地反対派を制止する沖縄県警の機動隊員ら=沖縄県名護市辺野古で
沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米軍新基地建設に反対する人たちの抗議行動が連日、米軍キャンプ・シュワブ前で続いている。にらみ合い、時に衝突する反対派と沖縄県警の機動隊員。その中で、一人の女性が粘り強く、若い隊員に声かけ続けている。米軍基地を巡り、分断される沖縄の現実に抵抗するかのように。 (皆川剛)
防衛省の沖縄防衛局が辺野古の沿岸部に初めてコンクリートを沈めた七日午前。キャンプ・シュワブのゲート前で、作業車両を止めようとする反対派の人たちと機動隊員がもみ合った。反対派の一人の手が若い機動隊員の顔に当たり、マスクがはじき飛ぶと、双方から言葉にならない怒号が飛んだ。
キャンプ・シュワブ前では、マスクやサングラスを着けた警察官の姿がいまや日常だ。「反対派の一部は隊員の顔をスマートフォンで撮影し、インターネットに流す」。ある警察官は理由を打ち明けた。「個人の信念とは関係なく、仕事は仕事だ。われわれにも家族がいる。身を守らないといけない」
対立する現場で、糸満市の自営業沢田利香さん(52)は機動隊員の靴をじっと眺めている。二〇一三年に神奈川県から沖縄に引っ越し、辺野古や高江に通うようになった。名前を書いたシールを靴に貼った隊員をかつて見かけ、名前を呼び掛けて以来の習慣だ。
「集団の一人にではなく、この自分に話しかけている。そう分かると彼らは一瞬ビクッとします。私は制服の匿名性の陰からのぞく人格と向き合いたい」
沢田さんがそう思うようになったきっかけは、反対運動をする高齢者が沖縄戦の体験を隊員らに話す姿を見たことだった。「泣くと米軍に見つかるからと、幼いきょうだいが日本軍に殺された。沖縄の高齢者たちは大声で抗議するのではなく、そうした話を若い隊員に静かに語っていました」
顔見知りになった隊員や海上埋め立ての作業員にはこう話しかけている。「あなたのおじいやおばあが戦争を生き延びたから、あなたの命もある。基地をどう思っているか。家に帰ったら昔話を聞いてみたらどう」
若い彼らの反応はまちまちだ。「はい」「お国のためですから」「他に雇用があればその仕事をしますよ。反対ばかりしないでください」。聞き流す人も、じっと聞いてくれる人もいるという。
ネット上には「機動隊員から人権侵害を受けた」と主張する書き込みがある一方、「反対派の方が度を越えている」と攻撃する書き込みも並ぶ。基地問題を追い続ける沖縄国際大大学院の前泊博盛教授は、沖縄で対立があおられている現状に、「警察官も職務を終えて家に帰れば沖縄県民だ。彼らは葛藤を深めている」と若い隊員らを思いやる。
県民が選挙で反対の意を示しても新基地建設を強行する政府。「沖縄の対立にではなく、対立をつくり出す政府の矛盾にこそ目をむけるべきだ」。前泊氏はそう呼びかける。
沖縄を分断させない 辺野古反対市民が地元機動隊員に語り掛け
2017年2月14日 東京新聞